パプリカ×kodomo 2

ここで一つ疑問が出てきます。

(前回の記事 パプリカ×kodomo 1)


パプリカは植物学的には果物であるということは、前に触れましたが、

そもそも野菜と果物の分け方ってどのようになっているんでしょうか?


日本では、生産する側の目線と、消費する側の目線で、分類の仕方も違うようです。

消費する側の視点では、野菜はオカズになるもので、果物はデザートに出てくるものという印象があると思います。


『マギーキッチンサイエンス』(Harold McGee 著)では、メインコースの一部として食される野菜と、デザートとして食される果物のそれぞれの特徴と違いを次のように述べています。


「vegetableの語源は、”元気付ける”とか”活性化する”という意味のラテン語の動詞vegeraである。一方、fruitの語源はラテン語のfructusで、”喜び”、”快楽”、”満足”、”楽しみ”といったことを意味する。これは味がよいという果実の性質であり、我々の根本的な生物学的興味に訴えるためのものである。一方、果実よりも繊細かつ多彩な楽しみ方を見つけだし創り上げる喜びを与えてくれるのが野菜である。」


この分け方は、私たちが生活と身近な感じがします。スーパーでも果物のコーナーと野菜のコーナーは、食べるシュチュエーションによってイメージできるような分け方になっていますね。


では、生産する側の目線はどうでしょうか。

生産する側の目線ということで、農林水産省の定義を参照します。

農林水産省の定義では、


野菜とは?


「食用に供される草本性植物で加工度の低いまま副食物として利用されるもの」


果物とは?


「概ね2年以上栽培する草本植物及び木本植物であって、果実を食用とするもの」


ここで、「草本植物」と「木本植物」という難しい言葉が出てきました。

簡単にいうと、草か木かということみたいです。


「草本植物」(いわば草)の特徴は、基本的には一年以内に花が咲き、実をつけ、枯れるものです。

一方「木本植物」(いわば木)の特徴は、多年にわたって繰り返し花を咲かせ、実をつけ続けるものです。


草か木かという分け方は、生産方法の違いにフォーカスした分類方法になっていますね。苗を植えて1年で収穫する点がポイントなのかと思います。なので、一般的には果物だと思われているイチゴやメロン、スイカは、野菜に分類されます。


この分け方は、日本の気候であることが重要な要素になります。

この分け方を、試しに原産地近くのパプリカに当てはめると、日本の気候では野菜の仲間入りしていたパプリカは、果物に分類されることになります。

というのも、原産地近くの暖かい地域では、パプリカの木は冬越しをするので、

草か木かの定義に当てはめると、木に含まれることになるからです。


野菜か果物かという問題は、海外でも議論されているようです。アメリカにはかつて、トマトが野菜か果物かということが、裁判で争われたというエピソードがあります。


「1890年代に、ニューヨークの食品輸入業者が、トマトを輸入する際の免税措置に関する申し立てを行った。トマトは果実であるから、当時の規制に従うならば輸入税の対象にはならないはずだというのである。」

『マギーキッチンサイエンス』(Harold McGee 著)


最終的にアメリカの最高裁では、トマトは野菜という判決が出され、食品輸入業者は税金を払うことになりました。

野菜か果物かという自然界の植物の分類について、裁判というプロセスで決定するというエピソードは、なんだか不思議な感じがします。


ここまで果物と野菜の分類について見てきました。

パプリカをこれまで登場した分類方法に当てはめると、


植物学的には、果物

日本の消費者の視点では、野菜

日本の生産者の視点では、野菜


となります。

野菜と果物の分類は、自然界の成り立ちを元にした1つの分け方しかないのかと勝手なイメージを持っていましたが、そんなことはないようですね。


『分類思考の世界』(三中 信宏 著)の中で著者は、

分類することは、生物分類学など専門分野としてだけでなく、日常生活の中にある身近な思考であることを指摘しています。

確かに、ある物事をグループに分けて整理すると、理解や記憶の手助けになりますね。

その上で、分類するという行為の特徴を、「日本で最も低い山はどこ?」という質問を例に出して説明しています。

「日本で最も低い山はどこ?」という質問は、単純な質問ですが、考えてみると大変難しいです。


「周囲の土地から突き出て標高が高ければ「山」とみなすと機械的に定義してしまうと、公園の砂場で幼児がつくった「砂山」まで「山」とみなさなければならなくなるだろう。」

『分類思考の世界』(三中 信宏 著)


高い山であれば、「高ければ高いほど」というイメージが湧いてきますが、低い山だと、「低ければ低いほど」となると、そもそもどこまでが「山」なのかを考えなくてはなりません。


実際には、国土地理院が経度・緯度・標高の基準になる点である「三角点」を与えることで、法律的に「山」とみなされるようです。


著者は、地形の連続的な凹凸に対して、

「山」もしくは「山ではない」という二者択一を行わなければならないというのが、分類という行為の特徴だと述べています。

そして、分類という行為には、もともと分けられないものをあえて分けなければならないという性質が含まれていることを指摘しています。


そのような視点で、野菜と果物の分類について考えると、

もともと分けられていない自然界の植物を、

野菜or果物とスッパリと切り分ける際、

環境や立場、時代、シュチュエーション、生活様式によって分類に違いが出てくることも不思議ではなくなります。

パプリカから少し話が逸れてしましたが、最後に、果物か野菜かということを考える時に、いつも思い出すエピソードに触れたいと思います。


以前私は、ポルトガルへ2年ほど留学していました。

ポルトガルの友人から、私が日本人だからという理由で、お寿司を作ってと頼まれたことがあり、アボカド入りの巻き寿司を作ったことがありました。


アボカドが入っていることに、友人たちは驚いていました。


ポルトガルでは、アボカドはデザートとして食べるもののようで、メインメニューとして食べることはないということでした。


「本物の日本のお寿司は自由なんだ!」


と友人たちは理解してしまったようで、

マンゴーやバナナ、パプリカやセロリなどみんな思い思いの具材を入れてお寿司を作りました。


出来上がったお寿司は、決して美味しいとは言えませんでしたが、これまで疑問に持つこともなかった、果物か野菜かという分類について、はじめて意識した瞬間だったのを覚えています。


tsutsu farm

所在地: 安芸高田市向原町

instagram: @tsutsu_farm

tsutsu farmは、

向原町にて、西洋野菜や伝統野菜を栽培しています。

農薬/化学肥料は使わず、

不耕起栽培や無肥料での栽培等、

実験的に栽培法を取り入れ、生産しています。

× kodomo project

「× kodomo (カケルコドモ)プロジェクト」は、 ”つくる場から食べる場へと橋を架ける”、 ”次世代へ橋を架ける”という 2つの”架ける”にスポットを当て、情報発信していきます。 安芸高田市の子供たちをモデルに据え、地元で採れた農産物を食べる姿をドキュメントします。

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